春の気配を感じる2月の後半、サーフライダーファウンデーションジャパン(SFJ)は、霞ヶ関にある環境省を訪れ、浅尾環境大臣とお会いしました。 2024年11月3日の文化の日に鵠沼海岸にある県立湘南海岸公園サーフビレッジで開催された「CARNIVAL湘南」にも足を運んでくださった浅尾大臣と、改めて環境問題について意見を交わしました。
文化の日における「もったいない文化」の再認識
私どもSFJは、11月3日の文化の日に開催される「CARNIVAL湘南」を通じて、日本古来の「もったいない文化」に焦点を当て、ゴミを減らし、海岸漂着ゴミの現状を知る機会を提供することを目的の一つとしています。
環境問題は時に難しく感じられることもありますが、CARNIVAL湘南では、楽しみながら環境について考える場を提供しています。マイ食器やエコバッグの持参を推奨し、ゴミ箱を設けない「ゴミゼロイベント」として開催。日常の中で自然と環境意識が高まる仕組みを作っています。 実際に、自分の食器やマイカップを持参して飲食を楽しむことで、どちらがよりゴミを出さないかを体験しながら学ぶことができます。
全国への展開とイベントの継続
この取り組みを文化の日の恒例行事として定着させ、「CARNIVAL湘南」だけでなく全国へ広げていくことを目指しています。
文化の日を「ゴミを出さない日」として周知し、自分の持参した食器で食事を楽しみながら、音楽や映画を楽しむ。そんな一日が全国に広がることで、環境活動としても大きな成果を生み出せる可能性を感じています。
毎年CARNIVAL湘南では、ドローンによる定点観測を実施しており、3年間で芝の状態に変化があることが確認されました。2022年11月3日には芝が枯れていましたが、2024年11月3日には鮮やかな緑の芝のままだったのです。
湘南地域は温暖な気候ですが、11月でもビーチサンダルで過ごせるほど温暖化の影響を実感しています。
今後は気温などのモニタリングも含め、重要なデータを収集する場として活用していきたいと考えています。
5万5000人が来場、ゴミ箱を置かない取り組み -世代を超えた環境意識の向上-
2024年のCARNIVAL湘南には、2日間で約5万5000人が来場しました。その中でゴミ箱を設置せずに運営できたことは、大きな成果の一つです。
京都の祇園祭でエコステーションがゴミの山になっている現状を目の当たりにし、「ゴミ箱を置かない」という強い意志を持ってイベントを運営しています。
湘南地域は、目の前に海があり、その環境変化を敏感に感じ取る市民が多いため、この取り組みへの共感が得やすいと考えています。
実際に、CARNIVAL湘南を訪れた親世代からは、「このイベントをきっかけに、子どもが自発的にプラスチックごみ問題などの環境問題について考え、話すようになった」という声も寄せられています。 年に一度、環境問題を再確認し、課題を共有することで、日本人が本来持つ自然やものを大切にする精神を再認識できる機会を今後も提供していきたいと考えています。
海岸線の後退とインフラへの影響
近年、海岸線の後退による影響で、海岸沿いの施設や駐車場が被害を受けるケースが増えています。国道が波によって浸食され、危険な状況にある場所も存在します。 神奈川県鎌倉市の七里ヶ浜や稲村ヶ崎では、波の影響で国道が削られ、危険な状態になっています。
この問題に対し、私どもは市民の声を行政に届けるとともに、景観を損なわずインフラを守る対策を講じる必要があると考えています。
持続可能な海岸環境を守るために、多くの人に関心を持ってもらい、行政と連携しながら適切な対応を進めていきたいと考えています。
環境省の取り組み
-浅尾大臣
環境省では企業や自治体と連携して海洋ごみの回収・国内から発生抑制に取り組んでいます。
企業と自治体の連携を促進する取り組みも進めており、より効果的な対策を目指しています。
国際的にプラスチックごみ対策を推進しながら、海洋プラごみ削減のための政策を強化し、課題解決に取り組んでおります。
湘南では磯焼け対策、全国ではブルーカーボン事業という取り組みを行っています。
-SFJ
こういった現状を環境省と地域が一体となり連携して行う必要があるように感じます。
-浅尾大臣
環境省はこれまでも地域と連携してブルーカーボン事業や里海づくりに取り組んでまいりました。
SFJは他の環境団体と連携はあるのですか?
-SFJ
もちろんあります。
アメリカ発祥の国際環境NGO団体、Leave No Trace Japan(*1)・Protect Our Winters Japan(*2)・The Conservation Alliance Japan(*3)と連携し海・山・川の環境問題に取り組んでいます。
日本の自然環境は、海・山・川が密接に関わっており、それらを包括的に守ることが重要で、各団体の想いが意気投合しています。
アメリカ発祥の団体ですが、日本らしく日本で根付かせるためには、日本独自の文化を尊重し、日本の環境に敵した活動を展開するためにも環境NGO団体が連携していくことで、素晴らしい形を取ることができると考えています。
マイクロプラスチック問題への取り組み
-SFJ
ビーチクリーン活動を行っていると昔に比べて一見綺麗になったように感じられるものの、マイクロプラスチックの増加が非常に深刻な課題となっています。
私どもは、マイクロプラスチックを除去するためにフィルターを備蓄し、問題の可視化に努めています。マイクロプラスチックが人体に与える影響についてはまだ未知な部分も多いものの、子どもたちと一緒に問題について学び、リスクを把握しながら適切な対策を進めることが重要だと考えています。
今後は研究機関と連携を取り、先々のリスクを考えていかなければならない状況になってきています。
もし、マイクロプラスティックの影響があることが明るみになってしまったら、産業へのダメージが大きく、もの凄くセンシティブな問題になります。
自分たちの生活や健康を担保していかなければならない中、今、国立大学が積極的に取り組んでいます。今後、研究機関と環境省で連携をとっていくのが良いのではないでしょうか。
-浅尾大臣
大きな流れとして、環境中のプラスチックを無くす国際条約の交渉を行っているところで、製造などを含めて、一つは海に流れ込まないようにしなければならない。
-SFJ
問題の根本をたどらないと解決しない問題なので、私ども環境団体は、波打ち際からこの問題をしっかりと見つめ、私たちの生活の中で問題を解決するヒントを見つけ出すことができないか模索しています。それこそが、私どもSFJの活動であり、CARNIVAL湘南の一日でもあります。
-浅尾大臣
鎌倉の公立小学校では、プラスチックを分解する細菌が発見されました。この細菌が持つ酵素の分解メカニズムが解明されれば、プラスチックのリサイクル技術への応用が期待されます。
カーニバル湘南でディスカッションを行うのも良いですね。
ゴミ箱問題と防砂柵の改善
-SFJ
県内では、ゴミ箱の運営資金の問題から、撤去が進んでいます。
また、プラスチック被膜のついた番線で作られた防砂柵は、被膜の劣化によってゴミを生み出すという課題があります。
そこで、私どもは番線を使用しない防砂柵(*4)の実証実験を進めており、湘南海岸を実験場として環境省と連携した取り組みを推進したいと考えています。現状、番線の被膜はプラスチックごみとして長く残り続けるため、より環境に配慮した防砂柵の導入が求められています。
また、SFJは「ワンハンドビーチクリーン」(*5)を提唱しており、海から上がる際に自分で持てる範囲のゴミを拾う活動を推進しています。しかし、そのゴミを捨てる場所が無いのが現状です。こうした課題を解決するため、環境省と連携しながら、ゴミ箱の設置やプラスチックを分解する細菌の研究などと合わせて、より効果的な取り組みを模索していきたいと考えています。
砂防柵に関しては、鳥取砂丘が市民活動によって景観を保ってきた歴史があり、地域住民が植林などの取り組みを行いながら、環境を守っています。私自身、茅ヶ崎から辻堂のオフィスへ向かう途中、毎朝ゴミを目にしていると「何か変えられないものか」と日々考えています。そこで、地域の竹を活用した防砂柵の製作を提案し、景観を守るための活動を推進していきます。
まずは鵠沼の一部からでも、この取り組みを実施できないか県などの行政とも連携していきたいと考えています。
今回、環境省を訪問し、浅尾環境大臣とお話しする機会をいただき、現在の環境問題について意見を交わすとともに、情報発信の強化や新たな取り組みの可能性についても共有することができました。
私どもSFJは、今後もより多くの人に環境問題を知ってもらい、一人ひとりが行動を起こすきっかけを提供できるよう、積極的に発信を続けていきます。
そして、その一環として、環境省とも協力しながら「CARNIVAL湘南」を全国へ広げ、環境への意識を高める場を創出していきたいと考えています。
CARNIVAL湘南の会場から海岸線を見つめる浅尾大臣
*1 Leave No Trace Japan https://lntj.jp/
*2 Protect Our Winters Japan https://protectourwinters.jp/
*3 The Conservation Alliance Japan https://outdoorconservation.jp/
*4 防砂柵とは砂防柵は、砂浜を守るために設置され、風による砂の移動を抑えたり、砂丘の形成を助けることを目的としています。 https://www.surfrider.jp/information/6349/
SFJでは、地元の間伐材を使用を使用し、プラスティックを使用しない砂防柵の実証実験も進めています。 https://www.surfrider.jp/information/7385/
*5 ワンハンドビーチクリーンとは片手で気軽に行うビーチクリーン活動のことです。散歩やサーフィンの合間に、無理なくゴミを拾うことを目的としています。 https://www.surfrider.jp/column/4764/