INTERVIEW-Vol.38 大橋海人

国内外のコンテストで長年、活躍してきたプロサーファー大橋海人さん。2019年からコンペシーンの一線から遠ざかり、フリーサーファーとしての活動に軸足を置いている。そのパフォーマンスが海外からも注目されてデーン・レイノルズが手がける新進気鋭のアパレルブランド「FROMER」のライダーに。さらに自身のブランドを立ち上げ、画期的なサーフコンテスト「KNOT」もスタート。ここ数年、サーフシーンをにぎわせるインフルエンサーに話を聞いた。

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大橋海人 / 写真  横山泰介
1992年生まれ、神奈川県茅ヶ崎市出身。17才でJPSAプロデビュー、ルーキーオブザイヤーに選出。2012年、年間ランキング2位。2013年、24年ぶりに開催された伝説のビッグウェーブコンテスト「稲村クラシック」で優勝。2015年、WSL JAPANのリージョナルチャンピオン。現在はコンテストシーンから離れ、フリーサーファーとして活動。アパレルブランド「FROMER」に日本人として唯一ライダー契約。「Lordish Behavior」の立ち上げ、コンテスト「KNOT」の開催などマルチに活躍中

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フリーサーファーという新たな道を歩み始めた大橋海人さん。インドネシア、南スマトラ、クルイにて photo : Kenyu

SURFRIDER FOUNDATION JAPAN (以下SFJ ):2019年、コンテストシーンからは身を引いて、フリーサーファーとして活動をしています。きっかけはあったのですか。

そもそも17才ぐらいから、コンペで頑張る理由が、フリーサーファーになることでした。ですから、20才くらいから、ツアーを周りながら、自費で旅をしてカメラマンに撮影料を払って作品を制作していました。フリーサーフィンとコンテストを二本の柱としてブレずにずっとやっていたんです。ですが、3年ほど前からいろいろな人達とのつながりができて、海外での撮影にも呼ばれることが増えてきました。試合に出る時間もないし本来の夢が叶いそうだったのでコンペをやめて、フリーサーファーに大きくシフトしたというところです。本当はCTに入ってフリーサーファーになることが、自分の一番の目標でベストとは思っていたんですが。

SFJ:どうしてフリーサーファーになりたいと思ったのですか。

元々、格好いいと思ったサーファーが、ロブ・マチャドとデーン・レイノルズなんですよ。これはずっと変わっていないんですけど。ロブ・マチャドに関しては、『THE DRIVE-THRU JAPAN』(注:映像作家テイラー・スティールの人気サーフムービー『THE DRIVE-THRU CALIFORNIA』の続編)の時に実際に会ったんです。当時、僕はサーフィンの世界のことに全く興味がなくて、ただ自分がサーフィンをするのが好きだっただけで、ケリー・スレーターのことも知らなかったくらい。ただ初めて会った時に、「こんな格好いいサーファーが世界にいるんだ」と衝撃を受けて。で、デーンも同じような感じで、「格好いいな」と思ったサーファーなんです。CTに入って、フリーサーファーとして活躍をし始めて、その姿を見ていて「僕もこうなりたい」と思ったんです。

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ここ数年、様々なアクションを起こしている大橋さん。その原動力は、サーフィンへの並々ならないパッションだ

SFJ:コンペティションとフリーサーフィン、両方のフィールドで活動されてきましたが、感想は。

コンペは、本当にアスリート寄りで、コンテストに勝って賞金を稼ぐとシンプルなスタイルです。フリーサーファーは、本来のサーファーのあり方かなと。元々、大会は無かったわけじゃないですか。いい波を求めて旅をしてというのが、サーファーだったと思うんですよ。今はコンペができたので、名前がフリーサーファーになっただけで、サーファーはそうあるべきだと思うし。今はアスリートの要素も強くなってきたけど、元々の部分を忘れてはいけないんじゃないかな、と。

SFJ:コンペティションでは獲得賞金で収入を得ることができますが、フリーサーファーは。

自分達が身につけているアイテムが売れて、それを企業が喜んでくれて、それでスポンサー料をもらって、というような循環をさせていけるのがフリーサーファー。一般のサーファーも、コンペティターよりも格好も生き方にも憧れるフリーサーファーのアイテムがほしいのでは。僕自身もデーン・レイノルズのものがすごくほしかったですからね。そういう意味でも、フリーサーファーになる方が難しいと思います。コンテストを回っている時は「企業のものを頑張って売ろう」というよりも、試合に集中している。自分達がやるべきことは、そのアイテムを格好よくプレゼンして、一般の人達が「あ、こんな格好いいものがあるんだ」と知ってくれるきっかけを作ることです。

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海外での活動が多くなったが、あくまでも活動のベースは茅ヶ崎。生まれ育った地元に対する愛は深い

SFJ:そのために動画の作品を発表し続ける。

はい。海外にもピックされるような格好いいものを作ろうと、頑張っています。そのためには自分が動画に映えなければいけないし、いつも憧れるような存在でなければならない。試合はどんなスタイルでも点数を出して勝てばいい。だけど、フリーサーファーは「格好いい・格好悪い」というスタイルは、見ている方が決める。どれだけファンを増やせて、どれだけ格好いいと思って貰えるか。動画を撮っている時って、1日10時間とか余裕でサーフィンをするんですよ。そして、1本の映像が世に出てどうなるか、そこが仕事。コンテストをやっている時よりもサーフィンの量が増えたし、自分がいきたくない波もいかなければならない。波によっては本当に命がけです。楽しいですけど、かなり過酷だなとは思います。

SFJ:その努力のかいもあって、アパレルブランド「FOMER」をローンチしたデーン・レイノルズから、ライダーに誘われた。

はい。いきなり、デーンさんからインスタにフォローが来たんですよ。「おっ、デーン・レイノルズからいきなりフォローされた!」と超テンションが上がって。何も知らないのにフォローしてくれたってことは認めてくれたんだな、とうれしくて。それまでお世話になっていたブランドには、とてもよくしてもらっていたのですが、デーンさんからオファーを貰ったらちょっと断れなくて……。

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Lordish Behavior(ローディッシュ・ビヘイバー)とは、サーファーのスラングで「イケてる行動」という意味。ウエットスーツ、デッキパッド、リーシュコードなどのアイテムを展開。photo : Kenyu

SFJ:2019年には自分のブランド「Lordish Behavior」もスタートさせました。デッキパッドやシャンプーなどのサーフギア関連を扱っています。環境にも配慮しているそうですね。

昔から自分のブランドをやりたいと思っていました。僕は何かアイデアを出してものを作るというのが昔から好きだったので。ただ「稼げそうだからやろうかな」という感じだと多分上手くいかないだろうし、「本当に好きで、本当にいいものを届けたい」という思いがないと。環境に関しては、オーストラリアとか海外に行くことが多いじゃないですか。そうすると、やっぱり向こうではオーガニックだったり環境に配慮したものがかなり出回っていますが、日本ではまだまだ遅れている部分があるので、何か自分でそういうものを作って世の中に広げていきたいという感じです。環境問題は壮大なことなので、自分が出来ることから少しずつやっていくのが重要だなと思っています。自分がやることで、「やっぱり海の環境をちゃんと考えなきゃ駄目だな」と思う人が1人でも増えれば僕は本当にいいなと思っているので、自分がやれることをコツコツとやっているという感じです。

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数値化されてジャッジされるコンペティションと異なり、フリーサーフィンは見る者の心にいかに感動や刺激を与えるか。photo : Kenyu

SFJ:昨シーズンに開催された「KNOT」は、大きな話題を呼びました。日本に埋もれている若い才能をフックアップすることを目的にオンラインで開催。優勝者は視聴者の投票で一位になったサーファーとともに海外でトリップし、そのムービーを制作して世界に公開。これまでにない画期的なコンテストですが、始めた理由は。

世界を回っていて、自分が苦しんだ経験とか、「もうちょっと、こういうところをヘルプしてほしかったな」というのを踏まえて始めました。世界とのつながりをすごく持ちたい時に、自分はゼロからスタート。海外を旅してサーフィンで認めてもらうという、つながりを持つまでに10年ぐらいはかかりました。でも、そのつながりをつなげてくれる人達がいれば、もっと早くレベルアップが出来たんじゃないかなと思います。今、自分はそのつながりが出来たから、それを子供達につなげていきたい。世界に出るために日本の環境を変えなければいけなと、海外に出てわかったんです。日本から本気でCTサーファーやワールドチャンピオンを出そうと動きをしない限りは、どんどん外国に抜かされていく一方だと思うので。僕達がジュニアの世代は「日本タイフーン」と呼ばれトップで活躍すると言われていました。ですが、次にきたのは「ブラジリアンストーム」だった。その背景には、国を挙げて「スーパースターを出そう」という動きがあった。もちろん個の力も強いですけど、バックアップというのもすごく大事。企業だけでもサーファーだけでもできないと思うし、手を取り合ってやらなければいけない。それを誰もやらないんだったら「じゃあ、俺がやるか」という感じですね。今後も継続していきたいのですが、自分達の利益にはなってないので、どこまでやれるか。ですが、子供達が「ありがとう」と言ってくれるのが、本当にうれしい。少しでも役に立っていることが実感できますし、頑張って続けたいですね。

SFJ:とても精力的に活動されていますが、将来、手がけてみたいことはありますか。

今やっていることで精一杯なので、今やっているすべてを成功の道に進めていき長く続けていくことが、今は一番ですね。これからの大きな夢はそんなにないですが、フリーサーファーでサーファーアワードの賞を獲りたいというのはあります。それは18歳の時から思っていることなので。

SFJ :どうもありがとうございました。

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サーフシーンに新しいムーブメントを起こしている大橋さん。見据える先が楽しみだ

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