このインタビュー連載がスタートして5年、今回で25回目となる。その節目に、連載が始まって以来、ずっとポートレート撮影を担当している写真家の横山泰介さんにご登場をいただいた。写真にかける思い、サーフィン、海の環境について、話をお聞きした。
横山泰介 / 写真 三浦安間
1948年東京都生まれ鎌倉育ち、葉山在住。写真家。サーファーのみならず、ミュージシャンやアーティスト、ハリウッドスターまで数多くの著名人を撮影。風刺漫画家の横山泰三氏を父に、「フクちゃん」で知られる国民的漫画家の横山隆一氏を伯父に持つ、鎌倉を代表する芸術一家の一人。10代後半から始めたサーフィンは生活の一部、日々、“海”とともにある暮らしを送る
写真家デビューのきっかけとなった台風の稲村ヶ崎の写真。父親のライカM3を持ち出して撮影した一枚。他にも何枚か撮影したが、残念ながらオリジナルのネガは紛失してしまった
SURFRIDER FOUNDATION JAPAN (以下SFJ ) :この連載のポートレートもそうですが、横山さんが撮影される写真には不思議な魅力があります。特に人物写真は、皆さん、リラックスをされて、いい表情をしていますね。
基本的に人物を撮るのが好きなんだよね。やっぱり人間が面白い。僕に言わせると、カメラは一種の暴力だと思うんです。レンズを向けられたら、嫌じゃないですか。プロフェッショナルなモデルだったら笑ったり表情を作れるけど、普通の人だったら緊張して固まってしまう。撮影する自分が固まっていたら、向こうもさらに固まってしまう。だから、なるべく自然体で撮影するようにしています。それと、人に興味があるから、撮られる側もそれを感じてくれているんじゃないかな。
SFJ :サーファーを撮影することをライフワークにしています。撮影対象としてのサーファーの魅力とは。
やっぱり、僕自身がサーファーだからね。今ではサーファーは普通の存在になったけど、昔はある意味ドロップアウトした人間で個性的だった。そういうのに、すごく興味があるわけ。皆、いい表情しているしさ。人間って自然の中にいればいるほど、いい顔になっていくんじゃない、と僕は思っている。潮にまみれてナンボみたいな。だから、漁師もいい顔をしているじゃないですか。
11度の世界チャンピオンに輝いたケリー・スレイターも、横山さんのカメラには自然な笑顔で向かう
SFJ :そもそも写真家を目指したきっかけは。
元々は友達と、16ミリのサーフィンの映画を海外から日本に持って来て、サーフショップや公民館で上映会をやっていて。「これだったら自分で撮れるんじゃないか」という気がして、一番手っ取り早いのは撮影所に行って勉強するのが早いなと、友達に紹介してもらって撮影所に潜り込んだの。2年くらいして「京都の太秦(東映 京都撮影所)に行ってこい」と言われて。でも、京都に行ったら波がないじゃないですか。それに昔は徒弟制度で、京都は特に厳しかった。まあ技術は覚えられるけども、波乗りがしたいわけであって辞めたわけ。
SFJ :なるほど、最初は映画のカメラマンを目指していたんですね。
ブラブラしていたら、知り合いのモデルの女の子にカメラマンを紹介されて。「毎日、事務所にこなくてもいいし、気が向いたら来ればいいじゃん」って、すごくフレキシブルな人だったから、「じゃあ行こうかな」と。うちの親父(横山泰三氏)は絵描きだけど、カメラの趣味があったのね。だから、僕もカメラで撮ることは別にどうってことないんだけど、そこで手取り足取り教えてもらって、スティールの面白さに段々ハマッていった。ちょうどそのころ、親父のライカを勝手に持ち出して、稲村ヶ崎の写真を撮ったの。その写真が、日本で最初のサーフィン雑誌、サーフィンワールドの誌面とポスターになってカメラマンとしてデビューした。そこからサーフィン雑誌と一緒に成長してきたんだよね。
横山さんの撮影現場は、とてもリラックスした雰囲気が漂う。ロブ・マチャドらしいメローな空気感に満ちた一枚
SFJ :横山さんらしい来歴ですね。サーフィンが人生の生き方が根本にある。改めて、サーフィンの魅力は何だと思いますか
何だろうね……。未だにわからないけど。この年齢になってもずっと続けられるというのは、やっぱり何かあるんだろうね。それは皆、違うと思うんだよ。世界中の海で、皆条件が違うでしょ。確かにいい波の時は、当たり前に楽しい。だけど、小さくても、その時の条件、例えば一緒にいる人間がすごく楽しんで、その後も楽しかったら最高。だから、たった一人でいい波に乗っていても、寂しい時があるじゃないですか。一人ぼっちで、ポツンっと浮かんでいるの、最初はいいけど何か寂しいんだよ。贅沢なんだろうね(笑)。でも、言えることは、この自然の中にいることが、体には一番いいんじゃないかな。
SFJ :長年サーフィンを続けてきて、自然の環境の変化は感じますか。
すごく単純な話だけど、いつも陸で生活しているけど、サーフィンをしていると、海から逆に陸を見るわけだ。で、僕はこの辺にずっと何十年も住んでいるけど、どんどん山が切り崩されて開発されて、消波ブロックが埋まって、「自然破壊」という言い方は嫌いだけど、どんどん進んでいる。そういうのを目の当たりにしていると、感じるものがあるよね。それは、陸から見ているとわからないんだよ。
世界を舞台に活躍する五十嵐カノア。年齢、性別を超えて、「サーファーはかっこいい」と語る横山さん
SFJ :なるほど、サーファーの視点だからこその気づきですね。
でも、それは波だけを追いかけていたらわからないんだよ。サーフィンのいいところって、例えば「サンセットが綺麗だね」とか「朝焼けが綺麗だね」って、海の中にいる時に見た景色を楽しんだりできること。で、当然、陸も見るわけじゃないですか。だから、ただ波だけを見ているだけなのは、僕から言わせると「人生、もったいないな」と。「そんなの先刻御承知」というサーファーもいるだろうけど、周りや時代の移り変わりも見る。それは自分の心の余裕じゃないですか。だから、今、ストレスが多いこの世界で、「海に来て、いやされる」という人がいっぱい増えたわけでしょ。
SFJ : 海の環境についてはどう思ますか。
一人一人の意識の持ちようだね。例えば、(サーフライダーファウンデーションがキャンペーンしている)「ワンハンドビーチクリーン」は、すごくいいいことだと思うんだよ。(サーフボードを持っている反対の)空いている手で拾ってくればいいだけの話じゃない。無理に何かを強制するよりかは、人の意識が変わることで、世の中も少しは変わると僕は本当に思ってる。
SFJ : 最後にサーファーへメッセージをお願いできますか。
サーフィンは自然の中のスポーツだし、自然の中で自分が遊ばせてもらうんだったら、自然に対しリスペクトの気持ちで汚さないように努力するのが、サーファーとしての最低限の心がけだと思います。
SFJ : これからも連載の撮影よろしくお願いいたします。素敵なポートレート、楽しみにしています。
サーフィンだけでなくファッションやコマーシャルの世界でも活躍するが、その軸足はいつも“海”にある