映画監督の本業とともに、映画館の運営や町おこし、行政イベントの演出など、さまざまなフィールドでエネルギッシュに活躍する安藤桃子さん。数年前に高知に移住してから、 “海”にかかわるプロジェクトを手がけることも多くなった。そんな安藤さんに海に対する思いを聞いた。
安藤桃子/ 写真 横山泰介
1982年、東京都出身。ロンドン大学芸術学部卒業。2011年、長編小説『0.5ミリ』(幻冬舎)を出版。同作を監督、脚本し、多くの映画賞を受賞。現在は高知県に移住し、映画文化を通し、日本の産業を底上げするプロジェクトにも注力している
子供たちの澄んだ歌声が海にこだました。昨秋、天皇、皇后両陛下が毎年出席される「全国豊かな海づくり大会」が、土佐湾を望む高知・宇佐しおかぜ公園で開催された。大会のテーマ「森・川・海 かがやく未来へ 水の旅」に即したオリジナルソングを、記念式典で地元の小学生たちが歌い上げた。
思えばいつか/この星に生まれ/仰ぐ空は海の青なり
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作詞をしたのは映画監督の安藤桃子さん。俳優の奥田瑛二さん、エッセイストの安藤和津さんという両親のもとに東京で生まれ育ったが、妹の安藤サクラさんを主演にした自作『0・5ミリ』のロケをきっかけに高知に移住した。市内に映画館「ウィークエンドキネマM」を起ち上げたりと地元の活性のためにさまざまなムーブメントを起こしている安藤さんに、県が大会の宣伝映像の制作と記念式典の演出を委託したのだ。
「海があり、私達は生かされている。その感謝を歌で伝えたかった」と語る安藤さん。
自身の映画館で脇田貴之さんのドキュメンタリームービー『ワキタピーク』を上映したりと根っからの海好きかと思いきや……。「いいえ、ずっと海が怖かったんです」と笑う。幼少のころに海でおぼれた恐怖がトラウマになって以来、海からは遠ざかっていたと言う。その恐怖心が消えたのは、高知に移り住んだのがきっかけだった。
「仕事で海にかかわることが多くなり、『本当は海を心から愛しているんだな』と気付きました」
ワールドクラスの波がブレイクする高知は、日本でも有数の美しく雄大な海岸線を持つエリアだ。緑深い山々に囲まれ、四万十川や仁淀川から潤沢な清流を黒潮に注ぎ込んでいる。「海は川とも山ともつながっている。海はすべての源」ということを実感した。高知には、海はもちろん自然の万物に神が宿ると考える日本古来のアミニズムが色濃く残っていると感じる。そんな風土と屈託のない人々、今なお息衝く古きよき日本の暮らしにひかれたのが、この地に移り住んだ理由の一つと語る。
それだけに、海の環境問題にも敏感だ。数年前、高知でも稀有な美しい白浜のビーチとして知られる大岐浜で、メガソーラー(大規模太陽光発電所)の建設計画が持ち上がった。海への影響や自然災害の発生が懸念されることから、サーファーと地元住人が開発業者と意見を交換しながらお互いが歩み寄り、計画は撤回された。
「まずは一人ひとりの意識の底上げが重要だと感じます。自分に余裕がなければ地球環境に気を配ることはできません。自らがハッピーにならなければ……。実は子供のころから、ずっと革命を起こしたいと思ってきたんです。『ピンク革命』と呼んでいますが、エロティックな意味ではないですよ(笑)。個々が自らを表現して、みんながハッピーになれる社会の実現が目的です」
今、世の中は社会ベースですが、自然ベースへの転換が高知から起こせたら。今ある課題を悩むのではなく、夢をイマジンして、文化で、ハートで解決していきたい。
現在、安藤さんはサーフィンはしないが、いつかしてみたいと思っている。
「サーファーは美しい存在だと思います。みそぎと同じなのかな。命の危険もある海に入るたびに、自然の厳しさと大切さを身を持って感じているのですから」
いつか海の中からも、「ピンク革命」が起こるかもしれない。
この4月、地域文化活動が評価されて「高知市長表彰」を受賞された。安藤さんの活動は高知から新しいムーブメントを生み出している。今年11月2日・3日・4日には官民一体となって取り組む、カーニバル00 in高知を開催予定。合わせて“生きとし生ける全てのイノチの幸せ”を目指すプロジェクト「わっしょい!」も始動する。
安藤さんが代表を務める映画館「ウィークエンドキネマM」。期間限定での運営だったが、2021年には同地にて更に進化した形でのリニューアルオープンが決定した。現在は箱のない形で活動中。
http://www.kinemam.com/