プロサーファー、DJ、ブランドプロデューサーとして幅広く活躍している湯川正人さん。2015年、オーストラリアへのトリップをきっかけに海の環境問題を強く考えるようになったと言う。そのトリップとは、世界的な旅行会社コンティキが企画した世界中のインフルエンサーを集めて旅をする「STORYTELLER」というプロジェクトだ。湯川さんがオーストラリアで経験し学んだこととは?
湯川正人/ 写真 横山泰介
1992年生まれ。幼少期に、サーファーの両親とともに東京から茅ヶ崎へ移り住む。2009年にNSA GARND CHAMPION SHIPで日本男子3位。2010年にはU-18 日本代表になりISA WORLD JUNIORへ。そして2011年にプロサーファーとして活動をスタート。 2012年、若者のリアルなライフスタイルを描いたテレビ番組「テラスハウス」に出演し注目を集める。 現在は人気DJとしても活躍中。時計ブランド「ALIVE」の代表兼プロデュースを務める。
SURFRIDER FOUNDATION JAPAN (以下SFJ )
まず、コンティキの「STORYTELLER」のトリップに参加したきっかけを教えて下さい。
湯川 いきなり、自分が所属している芸能事務所にオファーがきました。「オーストラリアでツアーをして、いろんな環境問題に取り組んでいく企画があるんだけど、参加してくれませんか?」と。何で俺なんだろうと思いながらもよく聞いたら、世界中のプロサーファーだったり、アーティスト、ユーチューバーとかフォトグラファーみたいなインフルエンサー的な若者を10人ほど集めて旅をするということでした。みんなにSNSでコンティキのことを発信してもらいたかったんでしょうね。
SFJ どうして参加しようと思ったのですか?
湯川 絶対自分のプラスになるなと強く感じたからです。他の国の人達と触れ合うことで、世界中に友達ができるわけだし、刺激ももらえる。自分はプロサーファーですが、コンテストに出ないフリーサーファーなので、環境に関することなど、サーファーやもっと一般の人達やにも伝えていかなきゃいけないなと思って。何の迷いもなく、「行きます」って言いました。
SFJ オーストラリアのどこに旅をしたのですか?
湯川 10日間ぐらいかけて、オーストラリアの端から端までという感じでした。最初は、グレートバリアリーフにあるハミルトン島に行きました。ホワイトヘブンビーチという、砂浜の白い、きれいなビーチがあるんです。その後、船の中に泊まって、メルボルン、バイロンベイ、ゴールドコースト、その後、シドニーへ行って、終わりという感じです。
SFJ トリップの具体的な内容は?
湯川 牧場へ行ったり、クラブへ行ったり、オーストラリアと触れながら、環境問題と向き合っていく。旅先のサーフライダーファウンデーションのスタッフがトリップに協力してくれて、毎回、一緒にごみ拾いをするんですよ。それでごみを拾って、スタッフが「じゃ、このごみは何になるかわかるか」と。「プラスチックがトートバッグになったり、いろんなものになるんだよ」と教えてもらう。で、実際にみんなでトートバッグを作ったりもしました。
SFJ 実際にビーチクリーンをしてみ、意識が変わりましたか?
湯川 恥ずかしながら、プラスチックごみがトートバッグとか、いろんなものに変わるというのはまったく知らなかったんですよ。それを感じ取れたのはすごくサーファーとして、いつも遊ばせてもらっている海に対して考えていかなきゃいけないなと、すごく思いました。ただ普通にサーフィンして、ビーチのごみを拾ってとかじゃなくて、もっと内面的な部分を考えていかなきゃいけないなって。
SFJ 内面的とは、どういうことですか?
湯川 例えば、ひたすらごみ拾いをしたって、またどこから流れてきて、ごみはなくならないじゃないですか。それをなくすためにはどういう動きをした方ががいいのかとか、考えなければいけないなと。まだ自分の力ではきないこともたくさんあるんですけど、何かやっていきたい。サーファーにとってはビーチクリーンは当たり前だなと思うかもしれないけど、一般の人からしたらビーチでごみを拾うのって、あまりない感覚だと思うんですよ。だけど、そういう人達にも、ごみをリサイクルすれば服やバックになったりと役に立つんだよ、と教えてあげれば、それってすごいいいことだね、となって、協力してくれる人も増えると思うんです。自分が日本でそういうことを見せてていかなきゃいけないなって。
SFJ プラスチックごみが減れば、生態系にもいいプラスになりますからね。
湯川 そうです。STORYTELLERのトリップ中に、サーフライダーファウンデーションのスタッフに、いろいろな写真を見せてもらいました。カメの目や口にプラスチックが刺さって死んでしまったりとか…。ういうのを目にして普通に暮らしている人間って残酷だなと思って。もっと自分達がしていかなきゃいけないことがあるんじゃないかなと。誰か一人がそういうことをしてても駄目なので、やっぱりみんなで団体になってやっていかなきゃいけないなと思って。
SFJ 湯川さん個人では、どのような活動をしていますか?
湯川 自分のホームグラウンドでは、月1回、ローカルの人達がビーチクリーンをしています。自分はその時に参加できないことが多いわけじゃないですか。だから、別にどういう活動をしているとではなくて、海から上がってごみを見つけたら拾って帰ります。ウエットスーツの腹の中に入れたりとか、海で浮いてたら手首の中に入れて持って帰ってます。地元だけではなく、例えば千葉とかどこのビーチに行ってても、クルマに持ち帰って捨てたりしますよ。自分が拾える範囲のごみは拾うようにしています。
SFJ 湯川さんにとって海とはどんな存在ですか?
湯川 ライフスタイルがサーフィンというのなら、海は心臓みたいなものですよね。その心臓をケアしないで、何やってるんだと思って。だから、オーストラリアへ旅して、お前、こんなことに気づかなかったのかと思いました。海をきれいにするために、ごみを拾うのは当たり前なんです。そんなのは昔から気づいてるんですけど、そのためにどういうことをしていかなきゃいけないのかというのを学ばされた感じですね。だからといって今自分が何かできているかといったら、できていない。自分一人でできるものじゃないから、サーフライダーファウンデーションジャパンと一緒にいろいろやっていきたいなと思います。
SFJ 最後に全国のサーファーにメッセージをお願いします。
湯川 ストレスがたまりながらサーフィンをしている人もいると思うんですけど、どんなに波に乗れなくても、サーフィンの調子が悪くても、サーフィンはやっぱり楽しむスポーツなので、常に楽しんでやってほしいです。そしてもし自分の足元や海に浮かんでいるごみが目の前に見えたら、一つでも持ち帰ることが海に対しての感謝の気持ちになると思うので、それをやっていただけたらうれしいです。
「STORYTELLER」の最初の目的地。グレートバリアリーフにあるハミルトン島。ホワイトヘブンビーチは世界でも最も美しいビーチの一つと言われている
トリップでは牧場を訪れたり野生動物と触れ合ったり、オーストラリアを肌で感じた
サーフライダーファウンデーションのスタッフとともにビーチクリーン
きれいに見えるビーチだが、プラスチックごみはたくさん落ちている。ウミガメなどの生物に大きなダメージを与える
プラスチックごみはトートバッグなどにアップサイクルされる。トリップでは自分達もトートバッグ作りを経験した
波がなかったので水上バイクで牽引してもらいトウインサーフィンを楽しんだ
取材・構成 : 佐野 崇