サーフィンの聖地、ノースショアで開催されるサーフィン・コンテスト「VOLCOM PIPE PRO」。毎冬、世界最高峰のサーファー達が凌ぎを削るパイプラインのビッグ・イベントだ。コンテスト中は、ビーチには多くのギャラリーが集まってくる。当然、ゴミも出るし、環境への負荷も少なくない。だが、運営組織の努力とアイデアで、世界屈指のエコロジカルな大会を目指している。今年、大会運営のボランティアとして参加した徳永修一さんに、話を聞いた。
徳永修一 Shuichi Tokunaga / 写真 横山泰介
沖縄県在住。元SURFRIDER FOUNDATION JAPAN理事、現諮問委員。沖縄で、海の環境や生態系を守る草の根的な保護活動を行っているサーファー。地元のサーフィンコンテストの運営なども行い、サーフショップ「green THE BOARD CULTURE 」、自社ブランド「ISLAND BROTHERS」、デザイン会社「株式会社アドプロ」の代表など、幅広く活躍する
SURFRIDER FOUNDATION JAPAN (以下SFJ )
徳永さんが「VOLCOM PIPE PRO」のボランティアに興味を持ったきっかけは?
徳永 大会のスポンサーであるサーフウエアブランドが制作した『SUSTAINABLE BY DESIGN』というショートフィルムを観て、おもしろい環境活動をやっていることを知ったのがきっかけです。それでつてを辿って、実際に活動しているSUSTAINABLE COASTLINES HAWAIIという団体にコンタクトしました。そして、ボランティアで参加したいとオファーしたところ、「いいよ」という話になりました。
SFJ 具体的には、SUSTAINABLE COASTLINES HAWAIIは大会で何をしているのですか?
徳永 大きなイベントではゴミがたくさん出ます。サーフィンの大会もしかりです。そのゴミをきちんと分別して、リサイクルできるものはリサイクルに回し、食べ残しなどの有機ゴミは農作物の肥料に還元させる活動などをしています。ちょうどバックドアの道を挟んだ山側にWaihuena Farmという農場があって、彼らはそこでコンポスト(生ごみ等の有機物を微生物や菌により分解し堆肥に利用ですること)を作っています。僕が行った時には、大きな山があって「トリプルクラウンのゴミはこれです」と。最終的には、その堆肥をオーガニックのファームに戻して、そこで作った野菜をまた販売したりしているそうです。 サステナブルな社会につなげようとしているわけです。
SFJ なるほど、興味深い取り組みですね。
徳永 やはり、ハワイは島だからゴミは大きな問題なんです。だから、サーファーも自主的にやろうとしているのでしょう。今回のクルーは7、8名でしたが、やはりハワイ在住がほとんどでしたね。会場での主な仕事は、ギャラリーがきちんとゴミを分別して捨てられるように手伝うことや、ゴミ箱からあふれたゴミを整理してまとめたり。でも、そんなに「ボランティアしてます!」という感じではなくて、みんな大会を見ながら「イエー!」とかやりながら、アサイーボウル食べながらリラックスした感じで。 だから、つきっきりではなくて、「ランチタイムが終わったら、ゴミが出てくるからその時はこうしよう」とか相談しながらやってました。
SFJ 楽しみながらやっているんですね。
徳永 はい。とても自然な感じでやっていました。セキュリティに「俺はガベージボックス(ゴミ箱)のセキュリティなんだ」とかって冗談を言ったりして(笑)。
SFJ 実際、ギャラリーはきちんとゴミを分別していきますか?
徳永 意識は低いですね。リサイクルゴミは、缶、ペットボトル、グラス。有機ゴミは、化学的のものが一切入ってないゴミ。トラッシュは、焼くなり埋め立てするビニールゴミなどです。たった3つの分別ですが、分別の表示を見ないで捨てていく人もいます。そういう人達に「ノーノー、こっちこっち」とか、「みんなで覚えていこうよ」とか「習慣にしなよう」とか、声をかけていくんですね。ビーチパークのゴミ箱を見て回って、捨てられている場所が違っていたら中のゴミを取り出して移したりもしました。
SFJ 今回の体験で何を感じましたか?
徳永 自分が住んでいる沖縄も島なので、SUSTAINABLE COASTLINES HAWAIIの持続可能な社会を目指す取り組みや思いに共感しましたね。いろいろと島に役立てることがあると思いました。
SFJ コンポストまでつなげるのは、日本ではまだ難しいかと思いますが、サーフィン大会やビーチでのイベントのゴミ分別は、もっと徹底できそうですね。
徳永 はい、日本では日ごろから当たり前にやってますからね。ただ、分別をする前に自治体としっかりと話をしておいて、終わった後にどうするか徹底しないと。回収して本当にリサイクルできるところまで一つの仕組みを作り上げたらいい。自治体によって分別のやり方も微妙に違うだろうから、各自治体との話し合いがどのようにしたらスムーズにいくとか、SFJで仕組みを考えたらいいと思いました。コンポストもできたらいいですね。堆肥を農地に返さなくても街路樹に与えるとか柔軟に対応できたら、現実性はあると思いますが。いずれにしても、今回、SUSTAINABLE COASTLINES HAWAIIのメンバーの「自らの意思でやる」という強さを感じました。「誰かがやってるんだったら、僕もやろうかな」ではなくて、自ら行動する。 そこはアメリカだなと感心しました。
取材・構成 : 佐野崇