俳優、プロサーファーという華やかな経歴と共に、日本では早い時期からフリーサーファーとして旅を続け、またクリエイティブな分野での活動も注目される中村竜さん。この春より、自然環境に則した社会貢献の一環として、「マイクロプラスチックバキュームマシーン」の制作と普及のプロジェクトをキックオフ。自然の中で育った自身の経験を振り返り、遊びの中から子供たちに何かを感じてもらえたら、と。サーフィン、素潜りが人生に欠かせないものと言い、海や山、循環の中で遊ぶライフスタイルを極める彼の「水」に対する思いを聞いた。
中村竜 / 写真 横山泰介
1976年、鎌倉生まれ。10代から俳優として活動、ドラマ『白線流し』を代表作に、映画やCMに出演。21歳でプロサーファーとなり、20代後半からはTrip Surferとして国内外を旅をしながら、独自の世界観を発信する。また写真家という顔ももつ。2008年からスタートしたオリジナルブランド、MagicNumberのディレクションや空間のプロデュースなど多岐に渡りクリエイティブな活動を行う。会社、H.L.N.Aの代表を務める。
2009年に設立したH.L.N.A.は、次世代のためにボードスポーツを広く正しく伝えていき、世界に出て活躍するチャンスをサポートしたいという思いと、サーフィン、スケートボード、スノーボードの垣根を払い、それぞれのプレーヤーが自らの環境に意識を向け行動を起こす、というふたつのコンセプトを軸にしている。
地元鎌倉では、2023年1月に完成した複合施設、WITH Kamakuraのクリエイティブディレクターを務める。
写真 三浦安間
写真 志津野雷
SURFRIDER FOUNDATION JAPAN(以下SFJ):中村さんの会社、H.L.N.Aでは、砂浜に紛れたマイクロプラスチックを拾うことができるMPV(マイクロプラスチックバキューム)をプロデュース。そのお披露目の機会として、辻堂のイベントでSFJが開催したワークショップ(マイクロプラスチックを加熱&プレスしてオリジナルのフィンキーを作る)とコラボレーションしていただきました。MPVを発案したきっかけはどんなことだったのでしょう。
海辺でゴミ拾いして、タバコのフィルターやペットボトルのキャップはまだ拾えると思ったんです。そういったゴミも環境には全然良くないんですけど、もしそれが自分たちの手で拾えなくなったら、自然環境の中に入っていってしまう。だから出来る限り、小さくなってしまったものをいち早く拾うことが重要だと感じて、ちょうどその時期に、ハワイ、オアフのノースショアで、MPVを作っているサーファーのチームがいて、ケリー・スレーターやジャック・ジョンソンがそれを回していたんです。「これは素晴らしい! 電気も使わないし.持ち運びもできる」と、それをベースにして装置のイメージが浮かびました。でもどこで作っていい分らず、探していたら、サーファーで大阪で鉄工所を営んでいる人と知り合い、協力していただくことに。自分たちは、海や山で遊ばせてもらっているということを基軸にした会社を運営しているので、環境に役立てることをいつかしたいと考えていて。会社で検討した結果、しっかりしたプロトタイプを作り、環境問題の中でゴミへのアプローチを課題とする日本各地の団体に寄付するというプロジェクトを立ち上げました。まずはアースデイに逗子海岸映画祭で、マイクロプラスチックを集めるというデモンストレーションを。先日のSFJとのコラボレーションでは、海で拾ったものがフィンキーにアップサイクルされるというストーリーを理解してもらえたらいいなと。今後、プロサーファーの大野修聖が主催する、伊豆のイベントでもビーチクリーンの際に使ってみる予定です。実際に砂の中にこんなにマイクロプラスチックが入っている、ということが子供たちの目にどう映るか。その子供たちが将来的に石油を使わずに、こういうプラスチックが出ない生産背景を作っていかないといけない、と思えるところまで繋がってくれるといいな、と思っています。
SFJ:伝える相手は、子供たちなんですね?
そうですね。楽しく、グルグル回すおみくじみたいなマシーンで、「たくさん取れてよかったね。でもこれって何から来てるんだろう、と遡ってイメージしてもらえれば。でもそこまで発想が行かなくても、ただ砂の中のプラスティックが取れるということでも良いかなと。自分たちが子供の頃に、とにかく遊びしかしてこなかったので、やっぱり遊びの中で感じることがあった。サーフィンも潜り(素潜り)も。子供の頃に裸足で磯の上を歩いて、潜って行った海の中に冷蔵庫が沈んじゃってる姿を見て、それは良くないなって素直に思ったり、そういうふうにしないためには、どうしたらいいんだろうって。教科書や本の中から学ぶことももちろん大事だと思うんですけど、実際にリアルに目にした自分の経験から、感じることは、ズバッと入ってくるじゃないですか。それがあった上で本で勉強すると、「あ、なるほどな」って。ちゃんと繋がっていく。そういった意味では、サーフィンやスノーボード、潜りといったことは、遊びながら学ぶという中では、一番最適なんじゃないかなって、勝手に思っているんです。
SFJ:中村さんの会社、H.L.N.Aの根本にある原体験はそういったことなのでしょうね。子供の頃、自然環境に入る上でどなたかからの影響というのはありましたか。
うちの親父の影響がありました。潜りが大好きで、休みだといつも潜りに行ってしまうんですよ。サーフィンというよりは、潜り。本当に上手で。子供の頃から、僕の日常の生活の中に潜るということがしょっちゅうありました。鎌倉というより、葉山や逗子の磯が好きでよく行きました。親父は磯のところまで一緒に歩いて、「俺、潜ってるから見てろよ」って海に入る。足ヒレが最後にボロンって沈んで、たまに海面にブクって泡が上がってきて、「あぁ、今あそこの水の中にいるんだな」って。だいぶ経って違うところから出てくる。そして「あの海の中見てみたいな」と思うように。そうして親父に「一緒に見てみるか?」って言われて、上からボディボードに掴まって見てろって言われて、マスクとシュノーケルをして親父が潜って行くのを見てると、海藻の中に親父が消えて行って、またそこから空気ががボコボコボコって出てきて、「あ、今あそこにいるんだ! 上がってこないけど、大丈夫かな」とか。「あの海藻の中はどうなってるんだろう」、「海藻に引っかからないのかな」とか。すごく色々なことを上で見ながら想像していて。ある日「お前も見てみるか?」って言われて、背中に乗せてもらって見に行って。今でも覚えてるんですけど、「3、2、1、で潜るぞ」。で、背中につかまって「苦しくなったら背中を叩けって」言われて。親父がバーッと潜ってくれて、夢の海藻の中に入って行けて、海の生き物がいるのを背中から見ていて、「あぁ、こういうところにいるんだ」って。見せてくれて、教えてはくれてないんですけど。そこから潜りが本当に好きになっちゃって。
SFJ:サーフィンを始める前から?
友達にもよく言うんですが、僕が一番好きなのは潜りなんですよ。サーフィンを始めた頃には海にはすっかり慣れていて。全く怖くないし、息もずっと止められる。カレントとかチャンネルとか、磯のことはサーファーより全然わかっていた。最近はあまりできてないんですけど、許可されている海ではスピアフィッシングもやります。
SFJ:潜り、サーフィン、そしてスノーボードもやりますよね。雪山はいつ頃から?
雪山は高校生の頃からなので、スノーボードも長いんです。昔、16、7くらいの時に、スノーボードのブームがあったんですね。また、今すごく流行っているじゃないですか。初めてスノーボードに触れたのは18くらいの時で。サーフィンもやってるし、スケートボードも少しかじっていたから、あ、雪山でもすごくサーフィンに近い感覚を味わえるんだなと。でも近いのだけれど、スノーボードは自分が思うに、すごく「静」の中。海が「動」なら、山は「静」。全てが止まっていて、シーンとした感じ、でもなんか見られている感じ。あの神聖な空気感がすごく新鮮。サーファーからすると、同じようなフィーリングがライディングの中であるんだけれど、でも対局の環境の中でやっている。そういうところも魅力だと思うんです。雪が溶けて、山を下って、海へと流れていって、また照らされて、蒸発して、雪になるのか、雨になるのか、そして山に落ちて、そんなところを見ていると、水の中で遊ばせてもらっていると実感する。地球っていうのは、ほんとうに水の惑星だと。
その水の循環というのが僕はすごく好きで。水って早く循環すればするほどいいなって、思うんです。雲になって、雨が降る段階で止まったところに落ちた水か、動いているところに落ちた水かで、循環するスピードはかなり違う。植物に吸収されるのか。土に吸収されるのか。速いサイクルで循環される場に落ちて行ったほうが、水は生きるのではないかな。そして多分、人間もそうなんじゃないかって思います。ひとつのところに留まるよりは、もっと自分の中の水が喜ぶ生き方をするということ。たとえば美しい景色を見て、「わぁ!」って脳みそや体が反応している時、自分の中の水が喜んでるんじゃないかなって思う、そんな感覚があるんです。
SFJ:水というのが、中村さんにとって大きなエレメンツなんですね。
そうですね。自分の息子二人には「氵(さんずい)」をつけて、この星は水の星だから、まずはしっかりサーフィンを通じて、上手くなる下手ではなく、水を理解してほしいなって。
SFJ:息子さんたちも、海に入り、潜りもするのですか?
潜りもします。一緒に連れて行って、上から見せてますね。
SFJ:お父様がしたように?
そうですね、一緒に連れていくと自然と潜ってしまう。深さ10メートルくらいのところに僕がいて、「ここまで来られる?」っていうと、出来てしまったりするんですよね。「すげー」って喜んで。「じゃ、下に行って5秒間待って、また上がってこようか」とか。そんなことやって遊んでいます。
SFJ:身近な人が自然の中にいてやっているのを見て育つのが一番ですよね。身につくでしょう。
そうですね。潜りでは呼吸のありがたみを感じます。普段、無意識のうちにしている呼吸が、潜ってから上がってきた時に、ハーハーって苦しくなって「息、大事でしょ!」って思える(笑)。自分の体と水や空気の関係性を実感すると、環境のことと絶対に結びつくじゃないですか。子供たちにはそれを紙の上じゃなくて、頭だけじゃなくて、感覚で理解してほしい。そうすると、彼らが発信するものも作るものも変わっていきますよね。だからほんとうに、自然の中で遊ぶことなんじゃないかなって。遊びが好きになったら、なんで楽しんだろう、なんで海はいつも流れてるんだろうとか思うようになります。
SFJ:今回のMPVのプロジェクトのベースとなる思いがお話を聞いてよくわかりました。海岸環境の保護、そして「水」を守るということをコンセプトに活動を続けるサーフライダーファウンデーションの基軸とも重なる思いが大きく、嬉しいです。ありがとうございました。