近年、世界中でウッドボードのムーブメントが起こり、コアなサーファーの間で注目をされているが、その牽引役がトム・ウェグナーさんだ。いち早く環境に負荷を与える石油由来のサーフボードに疑問を持ち、木を使ったサスティナブルなボード作りを手がけた。そんな稀有なシェイパーに話を聞いた。
トム・ウェグナー / 写真 横山泰介
カリフォルニア出身、オーストラリア・ヌーサ在住。ドナルド・タカヤマのライダーとして活躍後、シェイピングの道へ。2008年、優れたシェイパーに贈られる「シェイパーオブザイヤー」を受賞。2009年、トーマス・キャンベル監督『THE PRESENT』でフィーチャーされ、アライアブームを世界に引き起こす。サーフライダーファンデーションのメンバーでもある。
トム・ウェグナーさんのオーストラリア、ヌーサの自宅にて。広大な敷地で、ウッドボードの材料となる桐も育てている。©︎SAN-O PRODUCTIONS
SURFRIDER FOUNDATION JAPAN (以下SFJ ) :地元のオーストラリアの海の環境はいかがですか?
オーストラリアは海洋スポーツの先進国であり、積極的に海洋環境保護活動をしています。幸運なことに政府が汚染をとても厳しく規制していて、いい働きをしてくれています。特に、私が住んでいるヌーサは国際的に認められている生物圏なので、水の流し方やクオリティなどのガイドラインがあります。他のエリアでも政府の厳しい規制により、皆が環境に配慮した暮らしをしているので、とてもいい状態を保っています。私はカリフォルニア出身ですが、1980年代のカリフォルニアは公害がひどかった。人口が増えて下水処理が上手くいかなかったりと、深刻な環境汚染がありました。オーストラリアとは天と地の差がありますね。
SFJ :あなたはサーフライダーファウンデーションのメンバーですが、オーストラリアではどのような活動をしていますか?
現在は、プラスチック対策が主ですね。ビーチクリーンをしたり、海にプラスチックが流れこまないように対策をしています。またプラスチックバッグを使わないようにするために、エコバッグを広める活動もしています。今、オーストラリアでは、店で買い物をしても、ショッピングバッグはもらえません。
来日時に、日本の元祖ウッドボード「板子」を紹介されて興奮気味に話す。ダン・マロイさんとともに
SFJ :これまで日本に多くこられていると思いますが、海の環境についてはどう思いますか?
12度くらい訪日していますが、日本の海の環境についてよくわからないのが正直なところです。ただポイントによっては、砂が黒く水が汚れている所もありますよね。特に台風の後はゴミがビーチに散乱していたり・・・ですが、日本の人々は清潔で正しいことをするので、海を汚すようなことはしていないと信じています。環境を大切にする文化があると思います。
SFJ :トムさんは世界的にも有名なシェイパーです。あなたが手がけるサーフボードの一番の特徴は、一般的な材料であるポリウレタンフォームではなく、木を使っていることですね。その理由は?
たくさん理由はありますが、第一にサーフボードには木が適しているからです。ファイバーグラスやアセトンなど石油由来の材料を使ったサーフボードより断然すぐれています。私は桐を使っていますが、95%リサイクルできるんですよ。サーフボードは私のアイデンティティと言ってもいい存在です。自分は再生可能なサーフボードとともに生きます。自分がウッドボードを手がけたことで、世界でたくさんのサーファーが選ぶことができるようになりました。ウッドボードのカルチャーを作ることに貢献できたと思っています。
京都出身のサーファーである漆屋・堤卓也(堤浅吉漆店)プロデューサー・青木真(SHIN&CO.)が発起人となった「ウルシ・アライア・プロジェクト」https://www.rethink-urushi.com/surf の一環として、昨年、京都・京北でウッドボードのワークショップを開催。(右端:プロジェクト発起人である漆職人の堤卓也さん、左端:プロジェクト発起人である映像プロデューサー青木真さん)写真 : Masuhiro Machida [ KKW ]
SFJ :今、漆(うるし)を使ったサーフボード作りをしていますね。
「ウルシ・アライア・プロジェクト」ですね。京都の漆屋の職人から声をかけられたのがきっかけです。彼は伝統工芸である漆が衰退しているのを危惧して、漆を新しいプロダクトに使うことで新しい可能性を模索しています。漆はウッドボードに最適なコーティング材料なんです。今回、私が削る桐のアライアを漆でコーティングしたのですが、美しい上に滑らかでテイクオフも早い。今後も、このプロジェクトは続けていきます。
SFJ :最後に日本のサーファーにメッセージをお願いいたします。
サーフィンはバリューです。バリューとは何か。波乗り後の爽快な気分、サーファーのカルチャー、そしてサーフィンがもたらす経済など。これらのバリューは健全な人間を形成します。健全な人間は、海の環境に配慮し、さらにバリューある文化を生み出します。人生を楽しみ家族を大事にする。サーファーのコミュニティは、ハワイ語で家族を意味する「オハナ」と言っていいかもしれません。広い意味での友達や仲間なのです。このオハナは世界を変えることができます。サーフライダーファンデーションは、サーフィンのオハナを作り上げることに力を入れるべきだと思います。
SFJ :どうもありがとうございました。
堤浅吉漆店
http://www.kourin-urushi.com
SHIN&CO.
http://shin-and-co.com